フェルマー
「プレゼント(〜人を呪わば穴ふたつ)」


 「おい、本当に効果はあるのだろうな?」私はやはり不安になり、そのセールスマンに尋ねた。

 「おまかせください。全世界で販売しておりましてその効果のほどは、有名人相手ですといつも新聞紙上をさわがせております。」

 このセールスマンとの出会いは偶然向こうから声をかけてきたのだ。まるで私の望みをすべてわかっているかのように。そのタイミングのよさには確かに驚いた。

 妻との関係はもう冷めきっている。家にいても話しすらしない。セックスなんぞはここ10年したことがない。やり方忘れたのでは?てっか。心配ご無用、私には10歳下の愛人がいる。近頃会社での私の立場も非常にまずい。どれもこれも妻のせいだ。こうなれば会社を辞めて愛人と新しい人生を歩むのも悪くない。

 (妻が邪魔だな。)と思ってるときにこのセールスマンが声をかけてきた。「私どもにお任せください。あなたにはなんの疑いもなく奥様をなきものにできますから。」この魅力的な提案に私は飛び付いた。

 商品はネックレスであった。これを妻がつけるとその2時間後に自動的に首が絞まるというしだいだ。その後もとにもどり2度と長さがかわることはない、という商品だ。

 今朝、妻にこのネックレスをプレゼントした。喜んで「こんなのいただけるなんて、とってもうれしい。」と言われたときは確かに良心が痛んだが、いや新しい人生を歩むのだ、という理由からそのままにしておいた。妻はそれをつけて、「買い物に行ってきます」と出て行った。

 それから私は愛人のところに行き、こととしだいを告げた。愛人は黙って話しを聞いていたがきっと喜んでくれているだろう。私は愛人の部屋でスーツに着替え、(このスーツも愛人が見たててくれたのだ。)いちようのアリバイ工作のため出社した。

 もうネックレスをして2時間ほどになる。と突然かのセールスマンが訪問してきたのだ。


 

    「もうすぐですね。」かのセールスマンが言う。

    「なぜわかったのだ?」私はあまりのタイミングのよさに、背筋に冷たいものが走った。

    「仕事ですから。」

    その後言葉は途切れ沈黙が続いた。

    「ところでお客さん。そのネクタイは?」


 (ひとつ目の穴)

    「ああ、愛人からのプレゼントさ。」私は小指を立てて、いやらしく笑いながら言った。

    「そうですか。それはわが社の商品でございます。」

    えっ!と声をだそうにも声がでない。首が絞まってきていたので。。。。。




 (ふたつ目の穴)

    「ああ、ネックレスをプレゼントするときお礼といって妻がくれたのさ。」

    「それはわが社の商品でございます。」

    「えっ!じゃ、首が絞まるのか??」わたしは必死になってネクタイを緩めた。なんの抵抗もなく、すっとネクタイはほどけた。

    「いえいえ、お客さま。それは肩の荷がおりて楽になるネクタイでございます。奥様がご主人を少しでも助けたいからとご購入いただきました。いい奥様ですねぇ。」慇懃な瞳を大きくさせて含み笑いで私を見た。

    「え? おい!君!あのネックレスを止める方法はないのか?」私はそのセールスマンの胸倉をつかんで言った。

    そのセールスマンは、おおよそ人間的な感情から奇妙に隔たったところでこう言った。

    「お客様、その方法はございません。クックックッ、ハハハハハ・・・」

    私は尚もそのセールスマンの胸倉を前へうしろへとゆすりながら、涙ながらに頼んだ。

    「頼む!たのむ!たのむ・・・・」もう声にならなかった。

    「アッははははは・・・・・・」

   そのセールスマンは声だけの存在になっていった。 


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