ペコ
「チェリータウン」

さくらんぼの食べ過ぎて、わたしたちのおなかはふくれている。
なかなか車はやってこない。こんな小さな町だから、車が通ることなんてめったにない。だからわたしたちは、待ちくたびれておなかも空いて、そこらへんの樹になったさくらんぼをあらかた食べてしまった。
わたしたちは今日、チェリータウンをでていく。もうこの町にはうんざりしている。通りにはさくらんぼばっかりなっているし、今の季節、町中さくらんぼの匂いしかしない。お母さんは、さくらんぼ料理を山ほどつくる。いい加減、食べる気もなくなってくる。
わたしたちはここで車に乗せてもらって、アップルシティーへ向かうつもりだ。アップルシティーは憧れの町だ。なんと言っても“シティー”だ。 “タウン”なんて田舎臭い響きとは全然違う。きらきらとそびえるビルディング、その隙間になったたくさんのリンゴの木。さくらんぼなんかよりずっとおいしい。わたしたちは双子だから、二人で息のぴったり合ったデュエットができると思う。それで生計を立てて、夢のシティーライフを送るのだ。
夕方になって、ようやく私道を一台の車が通りかかる。刈り入れを終えたトラクターだ。
わたしたちは二人並んで、息ぴったりにヒッチハイカーのポーズをとる。
トラクターは少しずつスピードを緩め(もともと遅いけど)、わたしたちの前でプスプス音を立てて止まる。町でいちばんまずいさくらんぼを作っているヘドロさんだ。彼からはすごくくさい臭いが漂ってくるから、私たちはひそかにそう呼んでいる。でも、この際、ぜいたくは言ってられない。
「なんだあ?パン屋のとこの双子じゃないかね」とヘドロさんは言う。
「乗せていってくれない?」とわたしたちは言って、強引にトラクターに乗り込む。
「最近はそういう遊びがはやってるのか?」
わたしたちはちょっとむっとする。これは遊びなんかじゃないのだ。
「で、どこで降ろせばいいんさね?」
「わたしたち、シティーまで行くのよ」とわたしたちは言う。
「へえ、そりゃすごいねえ」ヘドロさんは猛烈な悪臭を放ちながらそう言う。
わたしたちは静かな農道を進んでいく。いまいちスピードが出ないのが不満だ。十分ほどすると、町外れのヘドロさんの家に到着する。ぜんぜん進んでない。
「早く帰んな。あっちの森は夜になると、幽霊がでるって噂だぞ」
わたしたちは顔を見合わせる。もうオレンジ色の夕日は遠くにかすんで、群青色の空が広がっている。
わたしたちは一目散で家へと駆け戻る。途中、おなかが空いたから、また樹からさくらんぼを拝借して、ちょっと食べる。なんだかわたしたちからもさくらんぼの匂いが漂ってくるような気がする。

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