papehiko
「かけもちタン」

 わたしの名前は、浦島レナ。小学4年生。
 アルバイトの「かけもち」をしているので、毎日が大忙しです。
 それもこれも、リストラされて役立たずになってしまったお父さんの代わりに、生活費を稼ぐためなのです。

 今日のバイトは、猫の尾行調査。

「自分の飼っている猫が、昼のあいだ、いったい何をしているのかを知りたい」
 という飼い主さんの依頼を受けて「ニャンコの1日の行動記録を報告する」というのが、アルバイトの主な内容です。
 ちなみに、時給は300円。最低賃金法に違反していることは、小学生の私にだってわかりますが、なにせ家にいる役立たずのお父さんが働かないので、仕事を選べないのです。

「こんちわー」

 という元気のよい声の主は、なんと、私が尾行している白猫のものでした。その白猫が、煙突がそそり立つ「富士湯」という名の銭湯へ、入って行ったのです。
 依頼者からは、あの白猫は「オス」だと聞いていましたが、いま見た限りでは「女湯」の方へと入って行ったのだから驚きです。
 私は、尾行していることを気取られないように、少し遅れて、白猫が入っていった「富士湯」へと潜入します。
「280円、はい確かに」
 私は、のれんをくぐり、番台のおばさんに入湯料を払いました。なけなしのお金です。我が家の2日分の食費。うちには、テレビなんてありません。なぜなら、先日、売ったからです。50円でした。
「ちょっとお聞きしたいのですが……あの白い猫ちゃんは、よく来るのですか?」
 脱衣所に白猫の姿がないことを確かめてから、私は、番台のおばさんに尋ねました。
「そうだねー。ノブエさん、ここのところ皆勤賞かもねー」
「え? ノブエさんっていうんですか、あの猫ちゃん」
 依頼者から聞いた名前は、たしか「トロロイモ」だったはずなので、私は驚きました。
「ノブエさん、毎日のように1番風呂を目当てにやってきて、2時間ほど、長風呂をしていくのが日課みたいだよ――え、それ以外のこと? あんまり知らないねぇ……ノブエさんって、あんまり喋らない人だから」
 人じゃなくて猫なのですが、とにかく、白猫のノブエさんこと「トロロイモ」は、おばさんの言うとおり、湯船にプカプカ浮きながら、時には平泳ぎし、時にはバタフライ泳法を試みながら、たっぷり2時間のあいだ、銭湯を楽しんでいました。
 そんな世にも奇妙な情景を、服も脱がず、風呂場のドアの隙間から中の様子をうかがってた私を、おばさんは不審がっていましたが、そこは小学4年生のロリロリ・マジックで、なんとか追求されずに済みました。
 そのあと、風呂からあがったノブエさんこと白猫の「トロロイモ」は、コーヒー牛乳(ガラス瓶)を、器用に飲み干したあと、まっすぐ自分の家へと帰っていきました……が、今日ここまでに私が見たファンタジーの数々を、そのまま報告できるはずがありません。正直に報告しようものなら、たぶん「ふざけるな」などと言って、怒られるに違いないからです。アルバイト代がもらえないのは困ります。
 だから、私は、ウソの報告をすることに決めました。

「おたくのトロロイモは、1日中、近所の公園の芝生で眠っていましたよ。嘘ではありません。本当です。保証します。なんでしたら、5年間の無料保証を、お付けいたします」


<戻る(携帯不可)
<総合索引
mixiへ(携帯不可)>