ハヤメ
「欠陥」

私は何処か歪な存在だった。
ゴツゴツした体や、変な顔等、あらゆる箇所が歪だった。周りの人を見て、よくコンプレックスになったものだ。

私は自分のそういったネガティブな面も含めて、自分を「欠陥製品」と呼んでいた。
そんな私だが、人に誇れる、唯一の特技があった。
長い間生きていて、この特技が無かったら、私はとっくにこの世に居なかったであろう。

私は、忘れることが出来た。

嫌な事も、楽しい事も、私が私にとって不必要だと感じれば、すぐさまに忘れられる事ができた。

私は、どんな事でも忘れることが出来た。

それは、ビデオのテープが、上書きして記憶の塗りつぶしてしまうように、完璧であった。
欠陥製品のビデオがガリガリと記録を塗りつぶすように、私はガリガリと記憶を塗りつぶした。

私は女の人と生活をしていた。
彼女と何時から、この生活をしているか分からない。記憶を消してしまったのかもしれない。だが、私は彼女の事を大切に思っていたし、彼女もそうであったと思う。
彼女の言葉だけは、何故か良く覚えていた。塗りつぶされる記憶の中で、その、言葉だけ鮮明に残っていた。
「あなたは特別な存在、だってあなたは忘れることができるのだもの。」
きっと、私は彼女の言葉が好きなのだろう。
彼女は私の全てといっても過言ではなかった。

週に一度、彼女の作った物を町に売りに行く。
私は町に行くのが嫌だった。自分の、ゴツゴツとした体や、歪な部分を見られるたびに、不安にかられるからだ。
そんな時、彼女の言葉を思い出すだけで、不安が、ガリガリと塗りつぶされた。

私は、彼女のお陰で、色々な事を忘れる事ができた。

ある日、町の帰りに、街灯の下で犬を拾った。
犬は私に大変なついてきて、彼女もそれを見て嬉しそうにしていた。
私が犬を飼いたい事を、彼女に告げると、快く快諾してくれた。
生憎と、彼女には犬はあまり懐かなかったけれど、それでも彼女は私が犬と戯れるのを、とても嬉しそうに見ていた。
私は、何時までもこの生活が続くといいなと、何時までも、覚えていられたらなと、ガリガリと塗りつぶされる記憶の中、私はふと思うようになった。

ある日、犬が死んでしまった。
老衰だった。
私は、悲しんだ。
彼女も悲しんだ。
次の日、彼女が、「大丈夫?悲しくない?」と聞いてきた。
私は何を言っているのか、わからなかった。
その事を彼女に伝えると、彼女はとても悲しい顔をした。
私は、記憶を塗りつぶす事にした。

ある日、彼女が倒れた。
流行り病の所為だった。
私は、悲しんだ。どうか死なないでくれと、願った。
そんな時、彼女は私に謝ってきたのだ。
彼女は何も悪くは無いのに。

「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」

必死に謝る彼女を見て、それが先に逝く事に対して、謝っているのでは無いことが知れた。
私は、彼女に何故謝るのかと、聞いた。

「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」
彼女は謝る。
「あなたを造って、ごめんなさい…。」
彼女は謝る。
「あなたは、とても優れた機能を持っている、とても特別な存在だわ。でも、それだけでは、人間になれないの。私は、嫌な事でも、覚えてる方がいいと言う事を知らなかった。」
私は馬鹿な存在ね…。ごめんなさい。そういって彼女は謝った。

彼女は死んだ。
彼女の事を忘れる事にした。
彼女という存在を塗りつぶす事にした。
でも、私はどうしようもない欠陥製品であったので、その唯一の誇れる事でさえ、出来なくなってしまった。

私は、彼女の事を思い出すことが出来た。

そうして、忘れる事しかできない、欠陥製品は、彼女の事だけは忘れられず。毎日毎日、彼女の墓に、花を届け続ける。

それしかできない、欠陥製品の様に。

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