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papehiko 「喫茶おしいれ」 |
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「そろそろ、寝なきゃ」
僕は、押入れを開けた。 「いらっしゃいませー」 若い女性の明るい声とともに、コーヒーのよい香りが、僕を迎える。 「お好きな席へ、どうぞー」 そう言われたものの、席は1つしかなかった。 「僕のふとんは?」 カウンター席に腰かけながら、女性に尋ねる。 「ぜんぶ捨てました」 愛想笑いも見せずに、女性が答えた 「どうして捨てたんですか?」 あくびを噛みころしながら、僕は聞いた。 「とにかく捨てました」 女性が、サラリと言い放つ。 「困ります。いまから寝るところなのに」 若い女性が相手なので、やさしく抗議した。 「さっきから眠たそうですものね。とびっきり濃いのをいれましょう」 「いや、そうじゃなくて」 「ご心配なく。私のおごりです」 話のかみあわない僕を無視して、女性は、手を動かしはじめる。 「パカッ…サラサラサラ〜」 それは、聞き覚えのある物音だった。 「パキッ」 なかば確信をもって僕は立ち上がり、女性の手元をのぞきこんだ。 「それ、インスタントコーヒーでしょ?」 こじんまりとしたガラスのビンには、茶色の顆粒が詰まっていた。 「しかも、スプーンを使わず、目分量で!」 僕は、得意気に指摘してみせる。 「……」 しかし、女性は平然とした態度で、沸騰したばかりのお湯をコーヒーカップに注いだ。 「はい、おまちどうさま。どうぞ召し上がれ」 こぼれそうになりながらの危なっかしい手つきで、僕の目の前に湯気が立ちのぼる。 「所詮、インスタントでしょ?」 とは言うものの、カップからは悪くない香りがしていた。 「飲めというなら、まあ、飲みますけど」 僕は匂いに誘われ、白色のカップに手を伸ばし、すこし口に含んでみた。 「びぷぱぷべぷ!」 インスタントコーヒーとは思えない味と香りだった。 「これ、おいしいですね、うひゃははは!」 気絶しそうなほどの多幸感に襲われた僕は、たまらず「喫茶おしいれ」を飛び出し、靴をはくことも忘れ、自宅からも飛び出した。 「うひゃははは!」 僕が大声で笑いながら歩いていると、警官に呼び止められ、なぜか任意同行を求められた。 「うひゃははは!」 警察署で検査を受けた結果、尿が陽性反応を示し、僕は「覚せい剤取締法」違反の容疑で現行犯逮捕されることになった。 「うひゃははは!」 どれだけ「喫茶おしいれ」で怪しいコーヒーを飲まされたという話をしても、誰も信じてはくれなかった。 「うひゃははは!」 それでも、僕は幸せな気持ちでいっぱいだった。 |
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