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shu 「夜汽車『さん太』」 |
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クリスマスイブだというのに私は独り、富士に向かっていた。 なんだか無性に雪が見たくなったのだ。一面の銀世界に立って純白の絨毯に倒れこみ、その柔らかな感触に身を包んでいたい。そうして流れる星を眺めていたい。いつもわけのわからぬ衝動に突き動かされてしまう私の悪いクセだ。凍死してしまうかもしれない。それでも死と隣り合わせの心地よい冷たさが私を掻き立て恐怖を押しのけてしまう。ロマン?いやそんなものではない。ただ真っ白な平面のなかで自分の存在を強烈に味わってみたい。そしてその存在さえも点から白へと拡散し、溶解していくであろう感覚に自分を投げ入れてみたいのだ。 その先は、わからない。たぶん死にはしない。結局、いつものごとく苦笑して帰ってくる。 はずだ。それで、いい。 ふと顔を上げるといつのまにか前の座席に、赤い服を着た男の子がポツンと座り、肩肘ついて車窓を眺めていた。小学3年生ぐらいだろうか。親らしき人はいない。しかしよく見ると、この服はまるでサンタクロースじゃないか。手にはサンタクロースが被る帽子を持っている。仮装パーティの帰りか? 「おい。おっさん。ジロジロみるなやっ」 突然、ふてぶてしい顔を向けて私を睨む。 「あ、すまんすまん」 それがキッカケで話すようになった。名は「さん太」というらしい。ホントなのか。笑ったら、また叱られた。どうやらおじいさんに頼まれて、富士山の五合目までプレゼントを届けに行くらしい。おじいさんというのは「サンタクロース」ですでに隠居しているという。サンタクロースが日本人だったとは驚いた。目を丸くして驚くと、軽蔑したまなざしを向けた。 「あんな。おっちゃん。世の中みんなクリスマス、クリスマス言うてるけどな。クリスマスちゃうで。正しくはクスリマス、やっ。く、す、り、ま、すっ じいちゃんは本来の仕事は富山の薬売りやったんや。おっちゃんやったら知ってるやろ。年末になってな。みーんな風邪引いたりお腹壊したり、大変やろ。なかには身内が近くにいなくて死んでしまう人もおるねん。そんな人たちのためにご先祖様が立ち上がって、クスリをプレゼントしてまわったんが最初や」 …くすります。薬増す、か。なるほど。なんか説得力があるんだかないんだか。笑うわけにもいかず、あいづちを打った。 「今な、ウイルスがな。たーくさん飛び回ってるンや。ノロちゃんとかなんとか有名やろ?ほんまはな。パソコン、クリック一発で薬なんかそこの住所に転送できるんやけどな。知っとるか、おっちゃん?日本には住所のないところがあるねんで。知らんかったろー?」 私がかぶりを振るとさん太はますます得意げに話し続けた。 どうやら富士山の五合目には、静岡県と山梨県の県境が消えてなくなっている場所があるらしい。丁度、私が行こうと思っていた場所の近く。思わぬところから奇妙な道連れができたようだ。 さん太に私の行く場所を話すと目を輝かせて地図を広げだした。私は、独りになりたかったのだが。これも何かの縁だろう。それにこんな小さい子をあんな寒々しい場所に一人で行かせるわけにはいかない。 「じいちゃんか?隠居して…あんな。オレ、じいちゃんが動いてるとこ、見たことないねん。いつも布団に寝ていて、動かへんねん。人様に薬わけるのもいいけど、自分が飲んだらいいのにな。でもな。じいちゃん。オレのあたまん中に話しかけるねん。おまえしかおらん。頼んだぞって。俺な。16代目さん太やねん。だからな。オレは独りでこの仕事をキチンとこなして帰るねん。そんでじいちゃんの喜ぶ顔が見たいねん」 列車は御殿場駅を過ぎた。流星が車窓を過ぎって山の稜線に消えていく。さん太はどうやらこれが初仕事らしい。思わぬ珍道中になりそうな予感に苦笑する。さん太は地図を睨みながらぶつぶつなにか言っている。女性ではないが可愛い連れができて、少しはクリスマスイブらしくなってきたか。あ、くすりますイブ、だったな。 列車がトンネルへと入っていく。抜けるとそこは白銀の世界が広がっているに違いない。 |
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