ペコ
「こちら地球より」
(お題:見え透いた嘘)

こんばんは。
こちら地球はもう夜の9時です。
月の方は今、何時でしょう?おそらくまだお昼くらいですよね?
この前のあなたの、月から見える星空の様子を書いたメールの一文はとても感動的でした。残念ながら僕の住む地球の極東の街からでは、あまり星は見えません。今もこうして窓の外をのぞきつつこのメールを書いているんですが、今日は曇っていて、いつも以上に星が見えません。
あなたのとなりに並んで、一緒に月からの星空を眺められたら、どんなに素敵だろうかと思います。それからあなたの瞳には、どんな風に星空が映るんだろう、と考えたりもします。「まるで豚が踊っているみたい」というあなたの表現、なんというか想像はしにくいですが、きっと素敵なんだろうな、と思います。


それで、今日、メールしたのは、すごく失礼な質問をさせてほしいからなんです。
もう何度も聞いたことですので、あなたがいい加減、怒ってしまうんじゃないかと心配です。ただどうしても気になることがあったので…。
今日、仕事場の友人にあなたのことを話したんです(言ってもよかったですよね?)
そうしたら、友人は「月に人がいるわけがない。お前は完全にだまされている。それはたちの悪い出会い系サイトかなにかだろう」と言うのです。
そしてあなたのことも、誰かがあなたのような存在があたかもいるかのような振りをして、メールを書いて送ってきているだけだと言うんです。しかも地球から!
もちろん僕はそんな話は信じません(おかげで友人とは少し険悪になってしまいました)。
あなたからは月のシェルターのことは何度も聞きました。月の地下に無数につくられた街のこと。月面に普段は隠れているけれど、その下にある高度に発展した美しい街並み。最初は半信半疑だった僕ですが、その街についてあなたが書いて寄こしたリアリティあふれる描写のメールに、今ではあたかもその街並みを見たかのように、僕の目にもありありと思い描くことができます。それに二ヶ月前に送ってもらったあなたの写真は僕の一生の宝物です。僕の住む国の、とある女優さんにそっくりなのです。もちろん、あなたはその人のことを知らないでしょうけど。
それでひとつだけ、どうか怒らずに聞かせてください。あなたは存在しますよね?こんなことをまた数ヶ月ぶりに聞くのは、その友人に言われたからだけというわけではないのです。
僕たちが知り合って、もう半年以上になりますが、あなたは地球に来る予定日が近づくたびに何か急な私用が入ったり、体調を崩してしまったります。もちろんそれを疑うつもりはありません。ただ、こう約束が6回も7回も流れてしまうと、僕としても少々、不安に思わずにはいられないのです。それにお金の問題もあります(つまらない話しをしてしまってごめんなさい)。月との交信費用として、『月と地球の友愛倶楽部』運営局からくる請求額が正直、今の僕には相当の負担となっています。今、現在、七社のクレジット会社からお金を借りている状態です。もちろん、この出会いがお金なんかよりずっと大事なことは重々、わかっているいのですが…。


ですが、昨日のメールを読んでこんな不安もほとんど吹き飛びました。
来週には地球に来られるとのこと、あれは本当ですか?しかも前々から話題になっていた、地球永住にあなたがかなり前向きでいてくれることもうれしいです。
来週、お会いできますよね?そして僕たちはずっとずっと一緒にいるのです。地球での生活は、重力の面などでかなり不自由があるとは思いますが、僕がついているので安心してください。
こんな風にまだ会ったこともない人に恋焦がれるなんて、妙な話ですね。でも、今の僕はいつもあなたのことばかり考えています。そしてあなたが僕と同じように、眠る前なんかに僕のことを考えてくれていたらいいな、と思ったりしています。
来週、お待ちしています。僕は「トウキョウ」という駅で、白い花(バラといいます)を手に提げて持っています。それが目印です。会えたあかつきには月の生活について、あなたの口からたくさん聞かせてください。

            こちら地球より 7月9日 21時41分


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