人生50%
「拒食」

私は感じたことがないのだが、拒食症というのがあるらしいね、と口下手なので妻からさりげなく聞けと言われたのにここまで率直に聞ける自分が何故だか好きな私に彼はピクリとも反応せずにそれでいて表情はあからさまに暗くなったのを見るとやはり不眠症に悩まされているのだろうか。

「問題はそんなに簡単なことではない。」

彼が言うのでそもそも拒食症に悩まされている人達にとってそれはちっとも簡単なことではないと思うのだが経験している彼が言うのだから少なくとも問題はさらに深刻なのだろうかと思い何が問題なんだいと再び率直に何の気遣いもなしに聞ける私は昔からよく鈍感だと忠告されていたものだ。

「食することはできるのだ。問題はその過程にあるのだ。」

何のことか分からないがそういえば私はあるらしいねと言っただけで別に彼に拒食症なのかいと聞いたわけでもないのにこうして説明を始める彼はそうとう悩んでいるのかと思うのだが反面勝手にくっちゃべられて相手の心に無関心な奴だと思いすぐむっとなるのが悪い癖だと妻に注意されたのだ。

「肉を食えば牛や鳥、野菜を食えば植物が、私に言うのだ。」

最初に彼が私とはもう違う世界で暮らしているのに気づくべきだったかといささか後悔したが辛抱強くそれでいて興味のあるようになんだって、一体なんと、と大げさに問いてみてからフリをしているようでバレていないか急に不安になるが彼の表情を見ていると相変わらずの暗い顔なので安心して話をした。

「つらい、痛い、苦しい・・と。野菜すら言うのだ。私に。」

私はこんなことを聞いてあげれる自分はなんて優しいのかと思いつつやはり彼の言うことが本当ならかなりつらいだろうと考えて食べた食材に文句を付けられても仕様がないじゃないかそんなもの生肉工場や畑で引っこ抜かれるときに言えと思いそう言えと率直に助言してやったのだのだが彼は不安なまま。

「違う。その言葉は、あくまで私に向けられているのだ。」

もっと一回で全部説明しろと思うが妻に言い過ぎるのは悪い癖だと言われているのでスタンダードに一体何故そう思うんだいとやさしく聞いてやってそんな反面上っ面な自分になんだか自己嫌悪していくような妙な気分になったが、知人に深く気にするのは悪い癖だと言われた事があったから気にしないことにしよう。

「これは自己嫌悪なのだろうか。それとも実際に肉や植物が私に話しかけてくると君は思うか!!?私はもうその蔑みの言葉がつらく重く私に覆いかぶさるのだ。ああ、どうか助けてくれ・・!!」

助けるも何もこっちだってそんな話を妻から聞いて以来食欲もないし変な声に悩まされているのだ。楽天すぎると友人に忠告されたことのあったがこれでは、いや、最近は・・・
「分かってるんだ考えすぎとは知人にも言われて深く考えないようにと・・・!それでもダメなんだ。もう妻に合わせる顔もない。自分の言葉をさえぎられるだけで怒りが全身を流れ、後には罵倒するんだ!!!なんとかしてくれ!!」

この馬鹿はせっかくの順序を壊しやがってそんなにやかましく文句を言われても私には関係がないのだがそのツッケンドンな態度が妻を泣かせついに他の男を作るまでになったのだろうがこれは過程の話なのででもその相手がもし目の前にいる男だったら絶対承知しないだろうと言うことと妻の手料理が食べられないのはこいつのせいか?いや、そうに決まっているのだ。だから最近妙な自己嫌悪から聞こえるはずのない声が聞こえて来て私を罵倒するのだ。

「私は欠点だらけだから・・。私の特長は色々な人に抑えられてきた。愛しい妻にさえ!ついには妻の得意な料理すら食べられなくなったんだ!」

分かってるはずだろうが。
「お前さえ」
いなくなれば
「俺は安泰なんだ」


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