Pochi
「みちのくおさんぽ鉄道」




みちのくおさんぽ鉄道は全長17Km。
山あり谷あり田んぼあり、詳しいことは地図にあり、というくらいに風光明媚な田舎を走る。
一日8往復。毎朝7時。白戸発万丈寺行きが始発。通勤通学で結構混雑する。終着駅の有枡温泉に高校がある。
日中の乗客は爺婆ばかりで、たまに道に迷った旅人が乗り合わせ、爺婆に愛想笑いをしている。
林の中の動物たちは線路を自由に横断する。蛇はレールが嫌いだから近づかない。頭も尻尾も分らない、何よりもグニャグニャしないのが気に入らないのだ。

年老いたイノシシが直線1Kmの線路上で休んでいた。畑から掘り起こした芋を食いながら紅葉を楽しんでいた。
2両編成、上り普通電車がやってきた。時速50Kmで誇らしげに走ってきた。
運転手は木漏れ日を浴びて口を真一文字に結んで2.0の視力で年老いたイノシシを見つけた。
「端さんとこの“キョウスケ”だぎゃ!」
ブレーキをかけ警笛を鳴らしたが、間に合わなかった。



みちのくおさんぽ鉄道2両編成、上り白戸行きがキョウスケを跳ねた。
衝撃で先頭車両が脱線した。3人の乗客が転げて手足に軽い怪我を負った。
事故対策本部は次のように発表した。
「今頃イノシシが出たのは、来年の干支に合わせたものだった」
「怪我をしたのは温泉帰りだった、千羽のヤッちゃん(75)と野地村のカネさん(69)と、東京都葛飾区の大工見習い、酒虫亮輔(27)の3名。いずれも軽症。運転手、金堂陣の輔(35)は軽い鞭打ち症。乗客安全義務違反で1万円の減給処分とする」
「酒虫さんは前夜会社の宴会で日本酒2合、ボージョレヌーボー3本飲んだ上、カラオケショップで他の客と口論。その腹いせで旅に出たという。帰り道が分らないというので万丈寺の住職が利根川の見える辺りまで送って行った。有枡温泉名物の饅頭を買って行った」
「“キョウスケ”の持主の端さんによると、かすり傷一つないのは良かったが、今回のことは何も覚えていないほどモウロクしており、事故を起こしたお詫びに、屠殺して振舞いをするとのこと」
「本社で協議の結果、勤労感謝の日に『ぼたん鍋』列車を走らせることになった。人気があればイノシシを追加するそうで、巻き添えになる“ゲンタ”“サクラ”“イク”らの冥福を祈りたい」



「先頭車両は被害者が出易いので、ここには乗客は乗せない。ただし朝夕のみ、後部に一両増結して混雑を緩和させる」
「運転手にヘルメット着用を義務付ける。運転席にエアバッグを取り付ける」

しばらくはこれでよかったが、無人の車両を走らせるのは、はやっぱりムダだから外すことになった。
みちのくおさんぽ鉄道は、今日も2両目を先頭に全2両編成で走っている。
一日8往復。22時頃には車庫に入る。


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