よっぺけ
「向かいこけし」

※この話を読んだことであなたの身に何が起きても,私は一切責任を取りません。
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『向かいこけし』





 あの一生忘れることのできない恐怖の体験をしたのは,私がまだ高校生の頃でした。

 私は友達のエミ子と一緒に,当時一人暮らしをしていた久美先輩のアパートに泊まりに行ったのです。

 深夜の2時を回る頃になって久美先輩は,「ねぇ,怖い話でもしない?」と言い出しました。

 その時は真夏の熱帯夜だったこともあって,私達は一服の清涼感を求めて,みんなで怖い話を始めました。

 まずはじめにエミ子が怖い話をし,次に私がして,そして最後に久美先輩が怖い話をし始めました。

「あなた達…『向かいこけし』の話,知ってる?」

 いつもはにこやかな顔をしている久美先輩が,急に神妙な顔になって,話を続けました。

「…夜にお風呂に入って体を洗っている時なんかに,たまに背後から視線を感じる時があるでしょう。そんな時は,決して4度後ろを振り返ってはいけないの。4度目に後ろを振り返った時,そこには…」

 部屋の中は水を打ったように静まり返って,私とエミ子は互いに体を寄せ合うようにして久美先輩の話に聞き入っていました。

「…やっぱり誰もいないの。

 でも,正面を向きなおした時…その人の目の前には,優しい優しい笑顔で微笑んでいる小さなこけしが立っているの。だけど,そのままそのこけしを放っておくと,こけしの表情が段々段々恐怖にひきつった表情に変わってきて,最後には,こけしの顔はこの世のものとは思えないような醜く歪んだ恐ろしい顔になってしまうの。

 そして,そのこけしの顔を見てしまった人は,こけしの顔と全く同じ死に顔で,死んでしまうんですって…。

 しかも――」

 その時,久美先輩の話を遮るように,突然久美先輩の携帯電話が鳴りました。

 私とエミ子はびっくりして腰が抜けそうになってしまいましたが,久美先輩はせっかくの怖い話に水を差されてしまったことと,深夜に電話を掛けてきた相手が先日振ったばかりの元彼だったということもあって,少しムッとした感じになって,「ちょっとゴメンね」と私達に断りを入れると,電話で相手と話し始めました。

 するとエミ子が,「久美先輩のこんな話を聞いた後でなんだけど…私,なんか汗で体がベトベトしてきちゃったから,シャワーでも浴びてこようかな」と言って,そのことを身振り手振りで久美先輩に伝えると,一人でシャワーを浴びにお風呂場に行ってしまいました。

 その後私は,電話を終えた久美先輩と世間話なんかをしていたのですが,いつまで経ってもエミ子がお風呂場から出てきません。心配になった私と久美先輩は,お風呂場の方にエミ子の様子を見にいったのです。

 ――私達がそこで見たのは,まさに地獄の光景でした。

 エミ子は,血の海と化したお風呂場で,恐怖に歪んだおぞましい顔をして死んでいたのです。

 …しかも,両腕と下半身が切断されて,まるで,「こけし」のような姿になって…。

 エミ子の葬式の時,エミ子の遺体は包帯でぐるぐる巻きにされていて,私やエミ子の友人達はもちろん,エミ子の両親でさえエミ子の死に顔を見ることはできませんでした。そしてこの出来事は結局未解決のまま,世間的には「いじめを苦にした自殺」として処理されたのです。





 以上が,私がかつて体験したお話です。あの時エミ子の身に何が起こったのか…本当のことは私には分かりません。ですが最後に,エミ子がシャワーを浴びている間に久美先輩が話してくれたことを,是非皆さんにも聞いて頂きたいのです。それは,こういう内容でした。

「もしも向かいこけしが目の前に現れたらね,『みのぶさんめんこめんこ』と唱えながらこけしの頭を撫で続けていれば,そのうち消えていなくなるんだって――」





『向かい子消し』

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