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黒ヒョウ 「ムシャクシャドカン病」 |
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「無罪です、無罪判決が出ました。」興奮した現場レポーターが続けて言う。 「満員電車無差別殺人事件で起訴されていた、上野原一太郎被告に無罪判決です。」 「………」 鈴元良夫は、ぼ〜っとモニターを眺めていた。 真面目だけが売りのこのキャスターは、アシスタントの黒谷葉子に肩を叩かれてはじめて、カメラがスタジオに返されている事に気づいた。 「ごほん…いや、これは。」 鈴元は姿勢、表情を正して言った。 「これは、最高裁がムシャクシャドカン病を精神病と認定したことになりますが…論議を呼ぶのは必至ですね。まず、改めてムシャクシャドカン病とはなにか?高山斑雄先生に説明して頂きましょう。」 高山が、待ってました、と話し出す。 「ムシャクシャドカン病…実際、これは難しい病気ですわ。誰もが大なり小なり自分の範囲内で壊せる物や関係があると思うんですが、それをムシャクシャした時に、ドカンと壊してしまう。そんな難しい病気ですわ、実際。」 この病名の名付け親でもある高山は嬉々としていた。 「要は、キレる。って事ですよね。」 そう言ったのは高山の対面に座る灰島拓己だった。 「それが、なぜ精神病なんでしょうか。」 「正確にはキレる。とは違うんですが…うん。実際、ええ質問だわ。実際、ムシャクシャドカン病は精神病と言う範疇が一番近いだけで、これは言わば性格なんだわ。その意味では性病だわ、実際。がはは。」 黒谷が高山を軽く睨む。 「実際、この判決は素晴らしいもんですわ。ムシャクシャドカン病はキレる。という一過性のものとは違うんですわ。先程も言うたが、これは性格に近い精神病ですわ。たとえ刑期を終えて、社会に戻ってきてもムシャクシャしたらドカンとしてしまうんですわ、実際。それやったら、刑務所に入れるより、病院に入れるのが筋ですわな、実際…」 「この判決は問題だらけです。」 高山を遮って、灰島が猛然と喋り出した 「まず、キレる。とムシャクシャドカン病との線引きが明確ではない。すると、なんでもかんでも、ムシャクシャドカン病にしてしまい病院に入れるという危険性がある。これは非常に問題だと思います。そもそも自分の範囲内の壊せる物や関係というのも良く分からない。ムシャクシャした彼氏が彼女との恋人関係をドカンと壊すのもムシャクシャドカン病になるのでしょうか、これも立派な自分の範囲内の壊せる関係です。そうだ!この判決も絶対におかしい!!案外、この裁判官こそムシャクシャしていて、ドカンと判決をくだしたんじゃないでしょうか!だいたい、このムシャクシャドカン病って言うネーミングセンスにもムシャクシャしますね。後ね、さっきから、実際、実際ってうるさいです!!その言葉、いらないでしょう!!」 「ちょ、ちょっと、落ち着いてえな、実際。」 ドカン!!!! 灰島が高山のテンプルを思いっきり殴り、高山が画面外に飛んでいった。 「失礼します」そう言って、女が部屋に入ってきた。 「なんだ!!入室するときはノックしろと何度も言っただろう!」 「何度もしました」 利害関係の一致から一緒に仕事をしているが、女は、権柄ずくで感情を抑えないこの男が大嫌いだった。この男もまた、自分を嫌いなこの女が大嫌いだった。 「既に、予定時刻を過ぎています」女は抑揚なく言った。 「ちくしょう!いいところなのに!!」 テレビの中では、灰島が高山からマウントポジションを取ろう高山の周りをグルグル回っている。高山も足を上げて、その動きについていく。その横で鈴元と黒谷は口論している。こちらも、もうすこしで殴り合いになりそうだ。 「くそ!今日はなんだ!!!」 「午前中は核実験施設の視察です。」 「!!…そうか…丁度ムシャクシャしたところだ。ドカンといくか。」 「何か、おっしゃいましたか?大統領」 |
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