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ぱらだいす ぱらだ 「夏の終わりに」 |
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ちんたまが落ちていた。この暑さにやられたのだろう。 だらりと伸びきって元気なく道端に落ちていた。 私はそれを拾った。 毛の生え具合と言い、筋の入り方と言い、良い景色をしていた。
めったに御目にかかれない逸品であった。 私はそれを家に持って帰った。 暑いだろうと思って冷たい水に冷やしてやると、 しわしわと縮んでいった。しわしわになるとますます良い。 まさに一級品であった。私はそれを床の間に飾った。 ある日私の家に彼女が遊びにきた。 私の部屋に入るなり、目ざとく床の間のちんたまを見つけた。そして、じっと見つめたまま目を離さない。 私は嫌な予感がした。そしてこちらに注意を向けさせようとしてしきりに話し掛けた。 しかし彼女は私の話を無視してちんたまを見つめ続けた。 「素敵なちんたまね。触ってもいいかしら」 私は胸騒ぎを覚えて、とっさに叫んだ。 「だめだよ」 「けちね。少しぐらい触ったっていいじゃない」 彼女は止めるのも聞かず、床の間のちんたまを手に取った。そしておもむろに揉み出した。 「ああん、きもちいいですぅ、すてきですぅ」 ちんたまは声を上げてよがった。 「気に入ったわ。これ、私に頂戴」 私の心臓はどきりとした。 「だめだよ」 私は慌てて答えた。 「いくらなら、譲ってくれる」 「いくらだって駄目だ」 「そう。それならこの子に聞いてみましょうよ。どっちのものになりたいかって」 彼女は掌の上のちんたまを見た。 ちんたまはもじもじしながら言った。 「おねぇさんのものになりたいですぅ」 「ほほほほほ」と彼女は勝ち誇って高らかに笑った。 そしてちんたまを連れて行ってしまった。 私はひどく落ち込んだ。 そして、どんなときでも俯いてとぼとぼと歩くようになった。しかし、そうやって歩くことが私に思わぬ幸運をもたらした。私はある日きんぽを見つけたのである。 きんぽも暑さにやられたようで元気なく道端に萎えていた。しかし色の黒さと言い、かりの太さ言い、なかなかのものであった。私はそれを家に持って帰った。 そしてやはり冷たい水で冷やしてやった。するときんぽはとても小さく縮んで白っぽくなってしまった。しかし心配する必要はなかった。かえって冷やしたのがよかったようで、冷水から出した後陰干しをしていると色艶は格段によくなって、黒光りしそうなほどであった。大きさは確かに少し縮んだようにも見えたが、それは全体がきゅっと引き締まったがゆえのことであり、状態がいいことを示していた。私はそれを床の間に飾った。 それを床の間に置くことで私の狭い部屋は 一瞬にして今までとは異質な空間に変貌した。その黒光りする、研ぎ澄まされた形の存在により部屋の空気は心地よい緊張感に支配された。私は床の間のきんぽを惚れ惚れと眺めた。今度こそ彼女には渡すまい、そう心に誓った。 ある日彼女が遊びに来た。私はすかさず押入れにきんぽを隠した。私は彼女にお茶を出し、何気ない世間話で誤魔化していた。出来れば彼女に早く帰って欲しかった。私がきんぽを隠していることに気付かれないうちに。私が彼女に牛の交尾の話をしている時に突然彼女が鼻をフンフン鳴らしながら言った。 「何か臭わない」 心臓がドキリと鼓動した。 「何も臭わないけど」 「いいえ、確かに臭うわ、何の臭いかしら」 そう言って彼女は鼻を再びフンフン鳴らして臭いの正体を突き止めようとした。私の脇の下からは冷や汗が流れていった。 「分かったわ、きんぽの臭いだわ」 顔から血の気が引いていくのがはっきりと感じられた。 もうおしまいだと思った。 「ねぇ、あなたきんぽを隠していない」 「隠してなんかいないよ」 「じゃぁ何で臭いがするのかしら。この臭いは間違いなくきんぽよ」 「きんぽの臭いなんかしないじゃないか」 私は白を切った。 「なにしらばくれているの。分かったわ。じゃあ勝手に探させてもらうわ」 「やめろよ、人の部屋だぞ。勝手に物色するなんて失礼だろ」 私は必死に抵抗を試みた。しかし彼女は私を無視した。そしてまた鼻をフンフン言わせながら、きんぽのありかを探ろうとした。そしてずんずんと押入れの方に近づいていった。心臓が喉から飛び出てきそうなほどにどきどきした。どうか神様彼女に見つかりませんようにと心の中で必死に祈った。 「分かったわ、ここね」 そう言って彼女は押入れをがばっと開けた。私はへなへなとその場に座り込んでしまった。 「あら、素敵なきんぽね」 彼女はきんぽを掌に載せてこちらを振り向いた。 「少し擦ってみても良いかしら」 「だめだよぅ、それはぼくの大事なもんなんだぞぅ」 私は力なく反抗した。 「けちね、少しくらいいいでしょ」 そう言って彼女はきんぽを擦りだした。 きんぽは「はぁぁ」とか「ふぅぅ」とかため息をついて身を捩じらせた。 「気に入ったわ、これ私に頂戴」 「絶対にだめだぁ。それはぼくんだぁ」 私は駄々を捏ねながら言った。 「そう、それなら、この子に聞いてみましょう。どっちのものになりたいかって」 そう言って彼女は掌のきんぽを見た。 きんぽは「お姉たまが好き、おねぇたまぁん」そう言って体全体を彼女の掌に擦りつけていた。 「ほほほほほ」と高らかに笑って彼女は きんぽ諸とも去って行った。 私はがっくりとうなだれて、狭く薄暗い部屋に取り残された。 あの日以来彼女は来ない。彼女は私を捨てていったのだ。今ごろはあのちんたまときんぽとともにエクスタシーの ハーモニーを奏でていることだろう。夏は何時の間にか過ぎていって庭にはコスモスが咲いていた。 |
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