でっぷ
「世界の終わり」

僕は暗いキッチンで煙草を吸っていた。
ただ少し落ち込んでいただけ、別にたいしたことじゃない。
犬と呼ばれる僕は強靭な肝臓と肺を持っている、それだけが取り柄だ。
何故僕が犬と呼ばれるようになったのか。
犬が僕を必要として近づいてきたのか、あるいは周りが僕を犬であってほしいと望んだのか。
気づいたときには僕は犬を深く渇望し、犬として生きることに疑問を抱くことは無かった。
暗いキッチンはTVから伸びる明かりが差し込んでいる。
ブラウン管の奥では大統領の演説が始まっている。
「我々、世・・・人・・・は、これまで・・・しかし・・・。」
いくつもの配線と部品、細分化されたTVネットワークが僕の尖った耳に雑音を、ピンホールの様な瞳孔に砕けた映像を伝えてくる。
僕はハッハッハッと舌を出して、ばらばらになった言葉や焼き付く映像をかき集める。
どうやら世界の終わりが近づいてきているらしい。
心痛な面持ちの大統領の顔は、ぽろぽろと顎の左側あたりから崩れ落ち始めている。
さようなら。

終わりが近づくにつれて僕は妙な確信を抱いた。
この大統領は犬と呼ばれない、あるいは犬と呼ばれなかった男なのだ。
そして僕はTVを通してこの男と相対する。犬と呼ばれた男と犬と呼ばれなかった男。
これはこの世界で限りなく出尽くした答えの中で、僕とこのTVに映る男の間で導き出された一つの答えだ。
彼の中には犬が存在せず、犬である僕に終わりなのだと伝えてくる。
互いに頼るものが違い、抱く確信も相反しているのに。
どうして終わりの認識は一緒なのだろう。
一国の大統領と一人ぼっちの犬が同じ事象に対して足を揃え歩み続けている。
さようなら。

大統領の演説により世界は終わりを告げ、この世の大きなものは小さく、小さなものはより細かくなってゆく。
そして僕は犬としてあったこの僕に終わりを告げ、犬と僕は完全に分離を遂げる。
一人ぼっちのキッチンで僕は吠えることができるだろうか。
一声で良い、一声吠えることができたら・・・僕はまた犬と呼ばれる僕を模索することができる。
世界が砕けた、人々は散り散りになりTV局は乱立している。
二度と繋がっていると感じることのできないこの世界は小さく語られ終わりを告げた。
さようなら。

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