あーみ
「潜空艦」

その日、潜空艦が見えていた。
午後12時03分、月の無いグレーの空に、ビルを掠め、巨大な鈍い姿態が浮かんでいた。

「空激」の指揮下にある潜空艦は、空に深く潜り、光を売買する密艇の追撃や、根や葉を降らす鳥流の駆逐、cosmosの侵略の防衛や攻撃など、地流人の完全隔離のため調空を行う。
その破壊力は9.2FRC、その昔、試運転実験で計画より5,2センチの誤差で月の一画を削り取った。
汚染流土でアメーバ状にうごめいていた真黒のおぞましい一体は、宇宙の闇に粉塵となり、なおうごめきながら永遠に浮遊する。
(それは、まるで月の悔し涙のようだった、と空激トップが会見した)

空に潜り空激の激科を遂行する潜空艦を、ビルの真上にこのように大きく暗く、目の当りにするのは初めてだった。K.TADASHIは道の端を流れながら、潜空艦の腹を見上げた。

遠くでサイレンが鳴っている。

角を曲がった時、濃く入り組んだ灰の影に見えていた潜空艦の鉛のような生きた腹が、だんだん露になってくる。いわば目である動孔がゆっくり開いたり閉じたりする度、金の矢のような光の粒子が、地流にひしめく銅建物や、緑化広告に植えられた人ポストが見上げる姿や、交錯する流路の芸術を射抜いては再び影を落とす。
光に射られた人ポストが空に向かって、イー、ウー、とざわつき、緑に塗られた腕をばたつかせている。いつものように腹の中から緑のレーザーが浮かび上がり、
「 緑 化 推 進 地 区  残 そ う H A P P Y L I F E 」
と、辺りに緑を漂わせている。
向かいのコンビニの薄黄色い明かりに影が動くのが見えるが、目の前には何一つ流れ行く者は無かった。

K.TADASHIの頭脳が熱を帯びてくる。
サイレンが鳴り始めた。

雲間からふいに欠けた月が現れる。
潜空艦がじりじりと巨大な体を引き摺り動き始めた。
月から熱い熱い溶岩の塊のような放射物が落下してくる。
潜空艦から奇妙な電子音を立て、迎撃砲が幾重にも発射されていく。
潜空艦の尾が、並んでそびえるビルに接触し、ビル達がガリガリと轟音を立てながら、まるで絵のように崩れ落ちていく。
叫び声が聞こえる。
鳥流がどこからともなく集まって、白い集団となり、潜空艦に体当たりを始めた。
バラバラと根や葉が降ってくる。

ぼうっと立ち煙る火の筋。
K.TADASHIの透き通る眼球が、落ちて来た根や葉から凄まじい数の細菌が飛び出し、とてつもなく拡散していくのを捉える。
人ポストが血を流す。

代替の時代が到来したのだ。

地の流れがガクリと止まり、K.TADASHIは激しく流路の外に放り出された。
ヘドロに満ちた止まった道で、K.TADASHIの唇には一つの言葉が貼り付いている。

「 G O D 」


潜空艦から生温い破片が零れ始めた。

世界は未だ、終わらない。

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