ぽいた
「信号待ち」

「西尾課長、頼まれていた見積書確認お願いします。」
「おー 竹田さん 仕事が速いね」
「えー 課長 誉めてもなんにもでませんよー。それよりバレンタインのお返し早くくださいよ。」
「ああ もう4月だねえ。またいずれ」

事務所は定時をすぎて閑散としている。
私と部長、部下の竹田さんしか残っていない。
来週のプレゼンに向けて資料を作るのに忙しい。

消音にしてある携帯がブルブルと揮えた。
「良夫さん?久美子が急に産気づいちゃってすぐに病院に来られるかしら?」
お義母さんからだった。
予定日はたしかまだ10日も先だったはずだ。

部長に病院に向うことを告げ、私は会社をとびでた。
ついにこの私が父親になるのだ。
まだ実感が湧かない。
男の子でも女の子でもとにかく元気な子が生まれてくれればいい。

駐車場に向かい車にキーを差込む。
妻は実家に戻っているから病院まで2時間ほどかかる。
FMラジオを聞きながら夜の国道を走っていく。

はやる気持からスピードがオーバー気味だ。
信号が青から黄色に変わった。
いけるか?と思ったが3日前にも一時停止違反でキップを切られたばかりなので、アクセルを離しゆっくりブレーキを踏んだ。

信号は黄色から赤に変わらなかった。
信号は黄色から桃色に変わったのだ。
その瞬間、フラミンゴの群れが私の車を追い抜いていく。

「なんだこりゃ?夢でも見ているのか?」

青黄色赤
信号の3色をもう一度思い出してみる。
青黄色赤
なんど思い出しても私の知っている信号はこの3色だ。

フラミンゴの群れはバッサバッサと国道を直進している。

信号は桃色から金色に変わった。
大勢の力士が私の車を追い抜いて進んでいく。
20人・・・いや30人はいるだろうか?
最後に行司が道を渡ったところでまた信号が変わった。

今度は迷彩色だ。
自衛隊員が匍匐前進で国道を渡っていく。

水色 茶色 紫 橙色 銀色 茜色・・・・

その後もいろいろな色に信号は変わった。
いつまでたっても青にならない。
青にならない代わりにサーカスの一団や駱駝に乗ったアラブの商人、お坊さんの行列などが私の車を追い抜いていった。

信号は白に変わった。

ウェディングドレスを着た美しい女性が一人私の車の横に並んだ。
女性は私の車の窓ガラスを軽くノックした。
窓ガラスを下げる。
ウェディングドレスの女性は一言つぶやいて国道を渡った。
「お父さん・・・今までありがとう」

「お父さん?どういうことだ?」
この女性はもしや私の生まれてくる子供の将来の姿なのだろうか?
なんだかそんな気がしてならない。
こんな美しい女性が私の子供だとは・・・
なんだか感慨深いものがある。

信号は青に変わった。

それからの道のり、信号には1度も引っかからず病院には2時間20分で到着した。
分娩室に向う。
「良夫さん、丁度今生まれたところよ!」
お義母さんが出迎えてくれた。
「ああ 間に合いませんでしたか・・・ところで女の子じゃないですか?」
「あら、女の子が良かったの?元気な男の子よ。」
「あ、そうですか・・・ちょっと疲れちゃってて屋上でタバコを吸ってきます」
「そうね、久美子もちょっと寝ているから少し休ませてあげましょう」

病院の屋上には星が煌いている。
おかしな夢を見ていたようだ。
まあ たしかに信号の色は3色と決まっている。
私は疲れているんだ。
タバコに火を点け、胸にケムリを吸い込んだところで携帯電話が点滅していることに気が付いた。
留守番電話が残っている。

「こんばんは 竹田です。課長・・・奥さんと別れてくれるって本当なんですよね。今日分かったんですけど、私のお腹の中には課長の子供がいるんです。連絡待ってます」

留守電はそこで切れた。

タバコの煙がゆらゆらと星空に登っていった。


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