ペコ
「新天地」

僕は死んでしまった。
ずっと遠くの離島を一人旅中、ヤシの実が木から落ちてきて僕の頭を割ったのだ。即死だった。どうせならもうちょっとましな死に方がよかったなあ、と幽霊になった僕は思う。たとえば、トラックに轢かれそうになった子猫を助けるとか、肺にバラの花が生える奇病にかかるとか。ヤシの実に当たって死ぬなんてずいぶん滑稽だ。
「でもまあ、人はいつか死ぬんだし」と天使が僕を慰める。天使は真っ黒のジャケットに真っ黒いミニスカート、白いひざだけの靴下を履いている。おまけに頭にはネコミミバンドをつけている。もうちょっと天使っぽい格好はできないのかな、と僕は思う。
僕らはふらふらと空に浮かんでいる。こうして見ると、本当に小さな島だ。まるで豆粒みたいだ。
「僕はこれから天国に行くの?」と僕は天使に聞いてみた。
「まあ、そうなるかしらねえ」と天使はまるっきり人事のように言う。「あそこを天国っていう人もいれば、地獄っていう人もいるわ。まあ、その人の気の持ちようってことね。いずれにせよ新天地であることに変わりないわね」
僕はそれを聞いてちょっとがっかりする。結局、本当の天国なんてどこにもなかったのだ。
「で、もう行けるかしら?」
「葬儀を見てからでもいいかな?」と僕はなんだかこの世が名残惜しくなって言う。
「まあ、いいけど。あまりおすすめはしないわよ」
僕の葬儀は死んだ場所が死んだ場所だけに、ごく親しい人たちだけでおこなわれる。みな、ここまで来るのに飛行機をチャーターしてこないといけない。けっこうな長旅だ。両親や親戚の顔に「なんでまた、わざわざこんなとこで死んだんだ」という迷惑そうな表情が浮かんでいる。
僕の遺体は灰にされ、波の激しい荒れた海に撒かれる。空から眺めていると、唯一、肉親以外で参列してくれた僕のガールフレンドが顔をおおってしくしくと泣いているのが見える。彼女はいまにも泣き崩れんばかりだ。それを見た僕の胸は、悲しさでいっぱいになる。
僕の母がガールフレンドを必死に慰めている。「まあまあ、そんなに泣くんじゃないよ」
「だって…だって…帰りの飛行機代がないんです…。どうやって帰ればいいの?」
言葉をなくしている僕に天使が言う。「ほらほら、葬儀なんて見てもろくなことないもんよ。で、もう準備はできた?」
僕はコクリとうなずく。もうなんだか、死んでせいせいしたような気さえする。
そして僕は天使に導かれ、新天地へと旅立つため、空高く上っていく。

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