クワズイモ
「そんな朝に。」

 抱きかかえた膝からは、女の匂いがした。

 自分が女であることを否応無しに感じさせる。

 私は自己嫌悪に陥った。

 同時にあきらめに近い感覚をおぼえた。

 そんな朝に。

 昨日見た夢を日記に書いて見る。母親が不倫をしている夢だ。書きながら、自分で自分をカウンセリングしてみる。結果、自分は女であることを嫌がっているようだ。
 別に母親が嫌いなわけじゃない。嫌悪感も抱いていない。夢の中のように母親は不倫なんかしていないと思うし、していたとしても現場を見たことはない。


 携帯を開いた。いつもの待ち受け画面。気になるあの人からメールは届いていない。仲のいいあの子からもメールは入っていない。世界に置いていかれたような気がした。
 他の人に聞いてみると、みんなそういつでもメールが来ているわけじゃないらしい。むしろ自分から連絡することのほうが多いという。だから自分にだけメールが来ないという訳じゃないことぐらいわかっている。


 やかんを火にかけた。やることもなく、ただ火をじっと見つめてみる。多めに沸かした水は、シュンとも言わない。コンロの音だけが、しずかに響いた。
 そういえば昔、水の入った紙のなべを火にかけたのなら、水が沸騰するのと紙が燃えるのとではどちらが先かという問題があった。答えを思いだせずに、沸いた湯でインスタントコーヒーをいれた。


 昨日の朝のことを思い出す。最近暖かくなった所為か、道路でよく動物に出くわす。大抵は上手く車の前を通り過ぎていくのだが、中には不幸にも車に引かれてしまうものもいる。
 残虐な性格ではないとは思うが、私はその死骸を見ると安心する。だから死骸から目をそむけることはなく、むしろ目で追ってしまう。なぜ安心するのかはわからないが、まざまざと死を見せ付けられると、逆に生きていることを強調させられるからかもしれない。


 好きな人のことを考えてみる。彼は会社の同僚で、同じ部署の先輩だ。最近良く飲みに行くし、相談にも乗ってくれている。口ではっきり聞いたわけじゃないが、多分彼も私に好意を持っている。
 それでも私は困惑していた。私の好意は果たして世間一般の好意の中に当てはまるのかどうかということに。
 私は、私が女であることを嫌悪しているのに、この感情は恋愛としての好きに部類して良いのか困惑しているのだ。


 部屋に入れたてのインスタントコーヒーの匂いが充満する頃、朝は昼へと成長した。

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