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人生50% 「食台車」 |
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寝台列車に乗った私はどうにも寝付けないままでバーのような喫茶室へ立ち寄ってみたいと思いふらふらと寝不足の体を揺らしながら4号車のドアを開けた。バーのような喫茶室は薄暗くどこか古めかしいアンティークに彩られさながら昭和の銀座のホテルのシャレた喫茶店に入ったような錯覚をおぼえる。
「いらっしゃいませ。どうぞある席にお座りください。なにも中の席だけでなくともよいのですよ。お好きな席へお座りください。」 ランプの明かりしかない暗い店内には私のほかに一人だけ客らしい男が黒いハットを深々とかぶりなにやらぶつぶつと一人つぶやきながら座っていた。 「なにも注文しなくてもかまわないのですよ。なにも注文などしなくてもいっこうにかまいませんし、なにを注文してもかまいません。お会計はいりません。」 そう言われても客である以上なにも注文せぬわけにはいかないので、薄い珈琲を注文したあとで急に妙な空腹感におそわれて、サンドウィッチを注文した。もう一人の客らしい男はテーブルに破れた新聞紙をひろげ一人ぶつぶつとつぶやいていた。「ああ・・・光る・・・あら・・・みたま・・しい・・・」 「おしぼりをお持ちしましたがこれに深い意味などありはしません。これによく哲学的な思考や暗に意味したいわゆるアイロニーがあるとお考えの方もおいでですが私はてんで意図を測ることをよしとしないのでこれには深い意味などありはしないのです。」 おしぼりはまだ温かく顔を拭いてみたくなったがそういわれてしまうとこのおしぼりになにかとんでもない細工や思考が渦巻いているような気がしてどうにも手をつけることができない。私は手も拭かずおしぼりをテーブルの上にやけに慎重に置いた。 「おまたせいたしましたご注文の黒いしかしあくまでも透明な明るみを残した珈琲をお持ちいたしました。お待ちいただいているサンドウィッチはあなたが望んだその時にお持ちするといたしましょう。どうか気を悪くせずにこの黒く透明な明るみを十分に堪能していただきたいと思います。」 かすかなランプに照らされた珈琲は注文通りの薄めのあわい黒光りを放ちミルクを混ぜると詩的な渦は描かずあっという間に暗めの肌色へと変化していった。もう一人の客のような男はどうやらなにも注文せずに一人隅のテーブルで眠っているようだった。よく見れば男の全身は黒いコートで覆われていて、部屋の薄暗さからほとんど視界に入らないでいたようだ。 明るみのある珈琲に砂をまぶしてみる。苦味を帯びた甘さが口の中広がる。薄暗い店内。たしなむ珈琲。たまらなくこの「雰囲気」というやつを味わい、少し経つと再び空腹感があらわれた。砂はゆっくりと、音も立てずに消えていく。明るみのある肌色にはもう少し色が加えられたような気がした。 「お待たせいたしました。これはサンドウィッチですが本当にあなたが含むべきものを白い空白で包んでいるかというと申し訳ありませんが自信がありません。ただ味には申し分があるとは思いませんので、どうぞご賞味のほどを。白い空白にはあなたに含むべきものを包んであるのかもしれません。」 ありがたくいただきます。ちいさな白いサンドウィッチたち。赤くスライスされたトマト、粘り気のある重たい卵、水気で潤ったレタス、新鮮で引き締まった肉質のハム。それらをほおばりながら私はこれにもなにかしらの意味を見出そうとする自分に気づく。自分になにが含まれ、含まれていないのか。小さなサンドウィッチたちは私の中へと吸い込まれ、私はふと眠気に襲われる。 毎日違うものを注文する。毎日同じ物事を思考する。いまだに答えは出ぬままに自問自答を繰り返す私を、白い骨をまとった黒いコートが静かに見据えていた。 |
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