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「ワイン」



『むかしむかしある国にワインというものを
飲んだことのない王様がいました。
王様はある日、二人のソムリエを呼んで
「おいしいワインを飲ませてくれた者に娘と結婚させよう」
と言いました。
二人は世界中を旅して、おいしいワインを探しました。
そしてそれぞれ極上のワインを探しだし、王様に献上しました。
二人はそのワインのおいしさを巧みに饒舌に語りました。
香り、味、舌触りをまるで詩のような表現で表し、目の前で自ら飲んでみせ「うまい」と目を丸くしながら言い、にっこり笑って王様に差し出しました。
しかし、王様は一口飲むと吐き出してしまいました。

ある日、王様は狩りに出かけました。
うさぎを弓で射たとき、茂みから「キャッ」という声がしました。みると女の子が足から、血を流していました。どうやら弓がかすったようです。
聞くとどうやら、向こうの小高い丘にある農場の娘らしい。
王様は家来に命じて、娘を馬車に乗せ農場まで連れて行きました。
両親は里に出荷に出かけていて、家には娘の兄しかいませんでした。
テーブルの上には一本のワインが置いてありました。
王様は「このワインはうまいのか?」と聞きました。
兄はそのワインを手に取ると、これは母の田舎で作られたものです、と言いました。それから娘の足を指差し、じつはこのワインはこの子の足の裏からできたのです、とつけ加えました。
王様は首をかしげながら、聞いていました。
兄は、その土地の風景やそこに住む人々の暮らし、そのワインが作られるまでの行程を身振り手振りで語りました。王様はずいぶんと興味深げにうなずいていました。
豊潤な自然に満ちた土地、そよぐ風、小川のせせらぎ、朝日に光り豊かに実ったぶどう。そしてワイン作りに励む人々の笑顔と汗。
王様は目を閉じてその情景を思い浮かべていました。

兄はそのワインがうまいかどうかなど一言も言いませんでした。
そして「王様のお口に合うかどうかはわかりませんがどうぞ」
と言い、グラスに注ぎました。
「どうかまず香りを楽しんでください」
王様はグラスを回しながら、鼻を近づけました。
様々な風景の匂いがよみがえるように広がりました。
王様はふと手を止めて
「さっき、このワインはこの子の足の裏からできたと申したが?」
と聞きました。
すると娘が
「わたしがブドウを足で踏んだのよ。何回も何回も」
とうれしそうに言いました。

王様は優しい目で娘を見、ワインを口に含みました。

その後、兄は王女と結婚したことはいうまでもありません。

めでたしめでたし』


この物語を読んだ小説家ははたとヒザをたたいて立ち上がった。

―小説もこのワインの如し







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